新年度のごあいさつ
2021年の総会で「東大科哲の会」の代表理事に就任致しました。決して胸を張れるような卒業生ではありませんが、会員の皆様のお力添えをいただきながら、交流の場としての「科哲の会」の活動をできるだけ有意義なものにしていきたいと思っています。どうぞよろしくお願い致します。
始まってすでに2年以上になる新型コロナウイルス感染症のパンデミックに加え、2月末に始まったロシアのウクライナ侵攻で人道的危機が絶望的に深まるなかで新年度を迎えることになりました。ウイルスは、人と人が会う、ごく当たり前の日常的な営みから、世界中をひっきりなしに人が行き交うグローバルな動きまでを一瞬にして止め、社会のありようを大きく揺さぶりました。その一方で、新しい情報技術は、空間の制約を越えて人が日常的につながる可能性も拓きました。後者はいうまでもなく、国際秩序をないがしろにする暴挙であり、欧米諸国を中心としたさまざまな制裁によってグローバル化した世界をまた別の面から断ち切る結果になりました。ここでもまた、情報戦ともいうべき側面が浮かび上がっています。
これらの出来事が、いつ、どのような形で終結を見るのか、まったく予断を許しません。その結果次第で、その後の世界は大きく変わるかもしれません。人類は今、一つの転換点にあるといわれるゆえんです。
人類が発展させてきた科学や技術と社会との関係を歴史的に問い直す、そうした観点から思索を深め、活動しておられる会員の方々が多いことと思います。 いうまでもなく、今起きていることの背景には、生命科学から情報科学、原発などのエネルギーまで、さまざまな科学や技術があります。また、社会や世界の分断のなかで科学者のふるまいも問われています。そもそも、科学や技術はどうあるべきか。人間とは何か、生命とは何か、という根本から広く、深く考える必要があります。それこそが科哲(科学史・科学哲学)の役割と言えるでしょう。 東京大学教養学部教養学科に科学史及び科学哲学分科が新設され、第1回卒業生が巣立ったのは1953年でした。その同窓会「東大科哲の会」は1998年に誕生、社会の様々な分野で活躍する会員の交流の場となっています。
1998年秋に開かれた「東大科哲の会」の設立総会で、当時科学史・科学哲学分科の主任を務めておられた村田純一さんは会の意義を次のように述べられました。
「この会には現場で実際にハードなサイエンスに携わっている方もいれば、ジャーナリストとして活躍されている方、企業で研究者として活躍されている方、色々な方がいるわけで、そういう方々から現在の科学あるいは技術を一体どう考えたらいいのかということを、生の声として聞くことができるわけで、大変貴重な機会になるのではないかと思っています」
科学史・科学哲学分科は学際科学科「科学技術論」コースに再編され、さらに社会との関わりが深まっています。その後、会則の会員条項が改定され、大学や学部の壁を超えて、科学史、科学哲学、科学技術論に関心を抱く方々を広く迎え入れています。国境を越え、世代を超え、専門分野を超えた対話の場となることに大学の使命があり、同窓会の存在価値もあると思います。さらにいえば、今まさに「科哲の会」ならではの活動の意義があるのではないでしょうか。
会誌『科哲』は、2022年元日付で23号を発行しました。上野紘機、辻中裕子両理事が編集にあたり、「研究費」のテーマで特集を組みました。隠岐さや香さんの総会記念講演録「王制は公的研究投資の起源なのかー科学アカデミー財務記録からわかること」をはじめ、2021年12月に相次いで鬼籍に入られた大倉文雄さん、金子務さん、佐々木力さんの追悼文などが掲載されています。また、「理論疫学者西浦博の挑戦―新型コロナからいのちを守れ!」を出版された川端裕人さんには、談話会の記録「理論疫学の力と伝えることの難しさ」を自らまとめていただきました。
今年の第22回総会は、新型コロナの感染状況次第ですが、キャンパスへの立ち入りの制限がなくなれば、5月14日(土)に東大駒場キャンパスの交流ラウンジで午前11時〜午後3時に開催する予定です。記念講演は東京大学理事も務めておられる藤垣裕子教授です。会員以外の方々の参加も歓迎します。何より、新型コロナが治まっていることを願いつつ、再会を楽しみにしています。
代表理事 辻 篤子
アーカイブズ
2017. 1 | 新春のごあいさつ(武部俊一) |
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2014. 1 | 新春のごあいさつ(武部俊一) |
2013. 3 | ご挨拶(住田友文) |
1998. 10 | 設立趣意書[PDF] |
「会旗」