ご挨拶

あけましておめでとうございます。

この17日で阪神大震災から丸20年になります。その後に起きた東日本大震災からもまもなく4年になろうとしていますが、福島原発事故の傷跡も含めて、まだまだ「おめでたい春」は遠いようです。御嶽山噴火や温暖化が絡むと思われる異常気象の増加など、日本列島の災害リスクは高まっているようにみえます。せめて、暮れに施行された「特定秘密保護法」や昨夏の「集団的自衛権の閣議決定」がものをいう日本社会にならないように願うばかりです。

2015年はどういう年になるのでしょうか。100年前には、アインシュタインが一般相対性理論を提唱し、ウェゲナーが大陸移動説の『大陸と海洋の起源』を出版しています。この1世紀で宇宙や地球についての理解はずいぶん進化しましたが、人間はあまり進化していないようです。科学・技術と社会との関わり方について、国境を越え、世代を超え、専門分野を超えた対話が必要です。そこに大学の使命があり、大学の同窓会の役割もあると思います。

「東大科哲の会」は1998年秋に誕生。設立総会での挨拶で、村田純一さん(当時、科学史・科学哲学分科主任)は「この会には現場で実際にハードなサイエンスに携わっている方もいれば、ジャーナリストとして活躍されている方、企業で研究者として活躍されている方、色々な方がいるわけで、そういう方々から現在の科学あるいは技術を一体どう考えたらいいのかということを、生の声として聞くことができるわけで、大変貴重な機会になるのではないかと思っています」と、会の意義を述べています。

教養学部の基礎科学科「科学史・科学哲学」分科が学際科学科「科学技術論」コースに再編され、さらに交流の輪が広がり、社会とのからみが深まることが期待されます。

多様な会員の交流の場として、1999年創刊の会誌『科哲』があります。2015年元日付で16号を発行しました。上野紘機、辻中裕子両理事が編集にあたった16号では「社会とリスク」を特集しました。さらに大熊由紀子さん(1963年卒)の総会記念講演「認知症をめぐる5つの誤解」や、大場利康さん(1990年卒)の談話会報告「紙の本とディジタルの本、この先どうなっていくのだろうか?」を収録、鈴木邦彦さん(1955年卒)や丸山瑛一さん(1957年卒)らの寄稿を掲載しています。引き続き、シニア会員のご支援はもとより、若い方のご寄稿も期待しています。

今年の第16回総会は4月4日(土)に教養学部(駒場)交流ラウンジで開催、野家啓一さん(1974年修士修了)が「大森時間論の再検討──中島義道氏の問題提起を受けて」と題して記念講演します。会員以外の方々の参加を歓迎します。

未年。「多岐亡羊」(列子)にならないように心がけましょう。

代表理事 武部 俊一