ご挨拶

あけましておめでとうございます。今年いただいた賀状には「穏やかな年になりますように」という願いが目立ちました。昨今の天変地異や混迷する世界情勢を反映して、激動する地球が予感されていると思われます。歴史を振り返れば、100年前の1917年にはロシアでプロレタリア革命が起こり、500年前の1517年にはマルチン・ルターが宗教改革の声をあげています。現代社会も改革が望まれています。

科学・技術は、改革推進や災害防止の原動力となるとともに、混迷を増幅したり、新たな災いをもたらす危険性も秘めています。例えば、威力を増す「人工知能」をどう育てるか、DNAを操る「ゲノム編集」を医療にどう適用するか。人間とは何か、生命とは何かを社会で広く、深く思索しながら進める必要があります。そこに科哲(科学史・科学哲学)の役割があります。

東京大学教養学部教養学科に科学史及び科学哲学分科が新設され、第1回卒業生が巣立ったのは1953年でした。その同窓会「東大科哲の会」は1998年に誕生、社会の様々な分野で活躍する会員の交流の場となっています。科学史・科学哲学分科は学際科学科「科学技術論」コースに再編され、さらに社会との関わりが深まっています。この度、「東大科哲の会」では会則の会員条項を改定し、大学や学部の壁を超えて、科学史、科学哲学、科学技術論に関心を抱く方々を広く迎え入れることにしました。国境を越え、世代を超え、専門分野を超えた対話の場となることに大学の使命があり、同窓会の存在価値もあると思います。

会誌『科哲』は、2017年元日付で18号を発行しました。上野紘機、辻中裕子両理事が編集にあたり、「科学技術と倫理」のテーマで特集を組みました。中村征樹さんの総会記念講演録「研究不正問題をどう考えるか」をはじめ、木原英逸さんの「責任/倫理を語って政治と社会を切り詰める」、村上陽一郎さんの「やまゆり園の教訓」、金子務さんの「人間の知のあり方を巡って」の論稿を載せています。

今年の第18回総会は5月13日(土)に東大駒場キャンパスの交流ラウンジで午前11時から開催。田中一郎・金沢大学名誉教授が「ガリレオ・ガリレイー宮廷に奉仕する科学者」と題して記念講演します。会員以外の方々の参加も歓迎します。
酉年ですから、大いに羽ばたきましょう。穏やかに。

代表理事 武部 俊一