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脳神経倫理研究会

投稿日:2008.11.05

Dr. Racine氏講演会

Dr. Eric Racine (Institut de recherches cliniques de Montréal) Neuroethics in Canada: Emerging research on the ethics of cognitive enhancement and neuroimagin

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  • 日時:11月5日(水) 13:00−15:00
  • Date: Wednesday November 5, 2008, 13:00-15:00
  • 場所:東京大学駒場ファカルティハウス1階セミナー室(S)
 Location: The University of Tokyo, Komaba Faculty House, Seminar Room (S)

【報告及び講演の概要】


講演会には21名が参加した。

ラシーヌ氏によれば、カナダでは各地にResearch Ethics Board(REB)が存在し、脳神経倫理の議論もこの体制
を基盤とした上で社会的に行われている。本講演では以下に挙げる三つのトピックを軸にカナダにおける脳神経倫理の課題と取り組みが紹介された。

(1)脳神経倫理について

様々な問題があるが、PUSに関連して多くの課題が生まれつつある。公衆衛生との関連や生命倫理との関わりや、従来では精神医学の管轄であった対象への関わり。特に脳神経科学による治療に際し、考慮すべき倫理的課題などがある。

(2)エンハンスメント問題について

認知機能を高めるためのエンハンスメント(Cognitive enhancement)の例として、「スマートドラッグ」として知られるリタリン(methylphenidate)などの問題が取り上げられた。

ラシーヌ氏らは学生によるリタリン使用を中心に調査を行った。調査手順としてはまず出版メディア報道の評価を行い、次にフォーカスグループディスカッションを行った。

まずメディアにおける認知エンハンスメントの表象として次の三つのパラダイムが認められた。第一に、一般的な出版メディアで「ライフスタイルの選択」として表象するもの。第二に生命倫理的観点から「認知エンハンスメント」として描き出すもの。そして第三が、公衆衛生の立場から「薬物の濫用、誤用」としてネガティヴな表象を行うものである。

フォーカスグループディスカッションにおいては、学生と学生達の父母、ヘルスケアプロバイダー計65人を対象にした。事前にメディア報道資料を読んでもらった。

その結果、リタリン使用を個人の選択として考える際には「ライフスタイルの選択」という論点が現れるのだが、「何故そうなるか」との考察においては「競争の圧力、周囲の期待、おいて行かれたくないという気持ち」というファクターが現れる。すなわち、本人は自律的な選択と信じているにも関わらず、実際には社会的に承認、受容(acceptance)されなければという社会的圧力ゆえに、認知エンハンスメントへと手を付けるという構図が浮かび上がってきた。

(3)Neuroimaging researchについて

今日ではfMRIを始め、非侵襲的、間接的に脳機能活動を計測する装置、テクノロジーが存在しており、この十年の間に感覚機能から人格、感情に関わる高次認知機能へと研究の範囲を広げていった。しかしその中には充分な証拠に基づかない過大な期待(嘘発見機械など)に基づく応用の試みや、商用化へと結びつくものがみられる。

ラシーヌ氏らはこの問題について今後の課題と戦略を検討するため、カナダ国内の14のREBを対象にREBがカナダにおけるneuroimagingの発展的な研究のリビューをしてきたかの調査を行っている。

調査は進行中であるが、全体としてREBがneuroimagingの実施要綱を取り扱うことが適切であるとの見方が示されている。そして国レベルでのプラットフォームを作ることや、REBとneuroimaging研究者の間のコミュニケーションギャップを埋める必要性など、今後REBが管轄とすべき領域や、予期されるリスクを考慮するなどの課題が提示されている。


以上からわかるように、脳神経科学の社会的責任とは、脳神経科学コミュニティ、人文・社会科学、メディア報道および科学の大衆化、公衆およびステークホルダーそれぞれを対象とする市民的責任(civic responsibility)を意味する。

なお、今後は国際比較なども行っていく予定であり、例えば(3)の主題については特にブラジルとの連携研究が予定されている。