講義題目: 進化論の哲学入門
授業の目標・概要: 進化生物学は経験科学であるから、その問題の解決には、何よりまず経験的なアプローチが必要となる。しかし同時に、そうした問題の中には、実証的なデータの蓄積のみによっては決着のつかない、優れて概念的な分析を要求するものも多々ある。たとえば「種は実在する対象か、それとも単なる分類のためのラベルか」 「自然選択が働く階層は個体か、集団か、遺伝子か、それともそのすべてか」「選択進化と中立進化の関係―すなわち進化における偶然性の役割―をいかに理解すべきか」といったものである。生物学の歴史を活気づけ彩ってきた重要な論争の中には、「対象レベル」における経験的・実質的な主張の対立に起因するというよりも、論争の当事者たちが依拠している「メタレベル」の方法論や自然観―つまりはパラダイム―の不一致に由来するものも多い。科学哲学的思考は、こうした問題に最終的な解決をもたらすものではないが、「ステークホルダー」たる論争当事者とは異なった第三者的な立場から、彼らが意識していない―ときには論理的整合性を欠いた―暗黙の思考の前提を剔抉するという役割を果たすことは可能である。
授業のキーワード: [日本語用] 進化論/生物学の哲学/自然選択/適応主義/社会生物学/進化心理学/選択の単位/利己的遺伝子説
[外国語用]
授業計画: 現在のところ以下のような話題を取りあげることを考えている。
1.イントロダクション 2.生物学の哲学とは 3.進化のメカニズム 4.進化と人間存在の偶然性 5.生物学に普遍法則はあるか? 6.生物学と物理学の関係 7.生物学固有の説明項―歴史性・目的・機能・デザイン 8.目的論(テレオロジー)と目的律(テレオノミー) 9.適応主義をめぐる論争 10.社会生物学/進化心理学と適応主義 11.自然選択の単位をめぐる論争 12.利己的遺伝子説批判 13.遺伝子は何をどこまで「決定」するのか? 14.「遺伝子と環境との相互作用」という言説 15.ネオダーウィニズムvs.進化発生生物学(エボデボ)
授業の方法: 授業は講義を主体としつつも、随時発言を求めたりディスカッションを取り入れたりする予定。当然生物学的上の話題にいろいろ触れることになるが、受講者がそうした知識をあらかじめ持っていることを前提しないような授業進行に努める。講義はすべてパワーポイントで行う。
成績評価方法: 受講者には最終的に、各自興味を持ったテーマで3000字程度のレポートを作成していただく。成績評価の目安としては、出席20%、発言やディスカッションへの参加貢献度20%、最終レポート60%。
教科書: 特になし。講義で使うパワーポイントのハンドアウトか、もしくはファイルそのものを受講者にオンラインで提供する予定。
参考書: 松本俊吉『進化という謎』(春秋社、近刊)/横山輝雄編『ダーウィンと進化論の哲学』(勁草書房、2011)/松本俊吉編著『進化論はなぜ哲学の問題になるのか』(勁草書房、2010)/E.ソーバー『進化論の射程』(春秋社、2009)/K.ステレルニー+P.グリフィス『セックス・アンド・デス―生物学の哲学への招待』(春秋社、2009)
履修上の注意: この入門的な講義を通して、一人でも多くの学生諸君に、進化論の哲学という未開拓でやりがいのある分野に興味を持っていただければ嬉しい。
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