テーマ: 心身問題としての「私」―デカルトから精神分析まで 「心」と「体」の関係はとても微妙だ。たとえば、「若い女性は、相手を“変わり者”だと思っていることを、口に出さずに表情だけで相手に伝える非凡な才 能がある」(『ジェイン・エア』)とか、「二人は顔を見合わせた。そして、わななく二つの胸のように、同じ悩みにとけ込んだ心と心はひしと抱き合っ た」(『ボヴァリー婦人』)などと言われる。 近世初頭、デカルトは「我思うゆえに我ありcogito ergo sum」と述べて、物質から分離されたところに「心」や「私」の在り処を求めた。これはきわめて重要な洞察で、西洋近代哲学の基本構図は、カントを経て現 代までこの線を継承している。しかし「生きた人間」としての我々は、「心」と「体」を分離できないことも事実である。授業では、近代哲学のさまざまな「自 我論」が、この矛盾をどう克服しようとしたかを概観する。たとえば、ウィトゲンシュタインや精神分析は、「私」を、純粋な意識ではなく、テキストが解読さ れる過程のようなものとして捉えた。こうした「自我の言語化」とともに、現代の脳科学やコンピュータの発展や、ロボットと人間の違いなど、現代における 「私」の問題を多面的に考察したい。 哲学は「ゼロから思考を立ち上げる」ので、予備知識は不要。授業は、プリントを配布しながら、講義形式で行う。 - 参考文献として、永井均『私・今・そして神』(講談社現代新書)
- 同じく参考文献として、田島正樹『読む哲学事典』(講談社現代新書)
- 成績評価方法:出席とレポートによる。
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