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講義題目: 能力の哲学―「できる/できない」の形而上学
授業の目標・概要: 目標 何かができる/できないこと、能力のある/ないとはどのようなことなのかを哲学的、批判的に検討し、このことを通して現代形而上学の一幕を経験する。
概要 経験を積むことでそれまで「できない」ことが「できる」に、あるいは、歳をとったり事故で怪我をしたりして、それまで「できる」ことが「できない」に変わることを、ボクらは当たり前のように経験している。二足歩行「できない」から「できる」に、お箸を使ってご飯を食べることが「できない」から「できる」に、自転車に乗ることが「できない」から「できる」に、一次方程式の問題を解くことが「できない」から「できる」に、徹夜でマージャンが「できない」から「できる」に変り、また、その逆にも変化する。こうした事象を語るとき、ボクらは各人のなかに能力が存在したりしなかったりすることを仮定し、能力を個人に内在する潜在性もしくはパワー(力能)の一種と見なす。しかしその一方で、能力はそれが発揮される文脈と条件の存在も必要とする。歩行できるには水面ではなく地面を、お箸でご飯を食べるにはお茶碗に盛られたヨーグルトではなく白米を、大学生に要請される社会人基礎力なら家族ではなく会社集団を、階段を車椅子で移動できるにはエレベーターを必要とする。 能力は、実際に発揮されなくともなくならない内在的性質でありながらも、それが発揮できる条件を要請し伴うという関係的な性格ももっている。この両義性のために、能力の本性を明晰な理解にもたらす格闘がアリストテレス以来、哲学者のあいだで(細々と?連綿と?)続いてきた。授業では、その現代的展開の一部を解説し、能力がある/ないとはどのようなことなのかを受講者とともに考えていく。可能ならば、特定の能力観が引き起こす、差別や格差といった社会の問題にも切り込みたい。
授業のキーワード: [日本語用] 能力、パワー(力能)、傾向性、潜在性/可能性、条件法分析、形而上学、心の哲学、科学哲学、因果性、変化、発達、学習、キー・コンピテンシー、アフォーダンス、イフェクティヴィティ、ディスアビリティ・スタディーズ、ケイパビリティ
[外国語用]
授業計画: 初回はガイダンスを行う。以下の10のテーマについて1〜2回分の授業を割り当てる予定。抽象的な形而上学的考察とそれを膨らませる事例の検討を両輪にして進みたい。 1.パワー(力能)、ディスポジション(傾向性)、アビリティー(能力)の異同 2.傾向性と定言的性質の区別 3.条件法分析とその限界 4.因果性、パワー、法則性 5.可能性/潜在性と現実性/顕現性との関係 6.心の機能的性質観と行動傾向性としての心 7.アフォーダンスとイフェクティヴィティ 8.能力獲得型の発達・学習観、キー・コンピテンシーの実態 9.能力と障害の内在モデルと社会構成モデル 10.ケイパビリティ/人間開発モデルと市民社会の構築
授業の方法: 講義形式を基本とするが、演習と議論を交える。演習の際には担当者を決め、調査と報告を割り当てる。また講義内容の理解を確認しながら適宜、質疑と議論を行う。
成績評価方法: 議論参加度40%、期末レポート60%
教科書: 使用しない。
参考書: Maier, J.(2010)“Abilities”, available at Stanford Encyclopedia of Philosophy(http://plato.stanford.edu/), Austin, J. L. 「『もし』と『できる』」、「弁解の弁」(坂本百大監訳『オースティン論文集』勁草書房、1991年所収), Ryle, G. 『心の概念』(坂本百大ほか訳、みすず書房、1987年), Crane, T. ed.(1996)Disposition: A Debate, NY. : Routledge., Heil, J. (2003)From Ontological Point of View, Oxford: Oxford University Press., Mumford, S. (2012)Metaphysics: Very short introduction, Oxford: Oxford University Press. その他、授業内で適宜紹介する。
履修上の注意: 期末レポートを提出して単位を取得するためには、三分の二以上の出席を条件とする。
関連ホームページ:
その他: 必要十分条件を示して概念の意味を確定するといった哲学特有のテクニカルな議論方法についても丁寧に解説するつもりである。哲学の議論に慣れていなくとも、発達、学習、学力、その他巷にあふれる「○○力」という言説に疑問と関心を持つ学生の受講を歓迎する。 |