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3,4年生の方へ

講義名 科学哲学特論I
年度 2017
区分 冬学期:通常講義
担当 田中 彰吾
教室 8-207
詳細

講義題目:

心の科学と現象学
授業の目標・概要:
この授業の目標は、心の諸科学(心理学・神経科学・認知科学・精神病理学など)のさまざまなトピックを取り上げながら、「自己(self)」について現象学的に考察を深めることにある。今ここで生じている直接経験から出発する限り、自己は、所有感や主体感のように前反省的に「生きられたもの」として成立している。この授業では、「生きられた自己」をめぐって多様な角度から考察を深めるため、(1)身体、(2)意識、(3)他者、という3つのサブテーマを設ける。自己が自己として成立するうえで、これらはきわめて重要な役割を果たしている。また、これらのサブテーマは、心の科学における各種の研究成果と、現象学で論じられてきた事柄とが接する主要な論点でもある。以上の見通しに立ち、この授業では、次のような一連のトピックを取り上げる。ラバーハンド錯覚やフルボディ錯覚のように特殊な体性感覚をともなう現象、離人症や統合失調症といった精神疾患にともなう症状、夢や共感覚のように通常とはやや異なる知覚的意識、独我論的体験など他者の心の位置づけに関係する経験、などである。つねに具体的なトピックから始め、哲学的に重要な論点まで考察を深めてみよう。なお、授業で取り上げるトピックは、誰もが経験しうる身近な現象から特殊で経験しがたいものまでを含むが、ここでは「それが当人にとってどのように経験されているのか」という一人称的な観点を重視する。科学的な因果関係や相関関係に沿って現象を説明することも重要ではあるが、この授業では、問題となる経験に密着し、その経験の意味を解明することを重んじる。
授業のキーワード:
[日本語用]
自己,間主観性,ミニマル・セルフ,他者,意識,身体性,生きられた経験
[外国語用]
self, intersubjectivity, minimal self, other, consciousness, embodiment, lived experiences
授業計画:
初回:ガイダンス(「生きられた自己」について,授業の進め方)
セクション1:「自己の身体性」をテーマとして議論を進める
 1)身体と物体(ラバーハンド錯覚等を題材に、身体と物体の区別について考える)
 2)自己の身体と他者の身体(ソマトパラフレニア等を題材に、自他の身体の区別を考える)
 3)鏡に映る身体(自己鏡像認知を題材に、反省的自己意識について考える)
 4)身体なき自己はありうるか?(セクション1のまとめ)
セクション2:「意識と脳」をテーマとして議論を進める
 1)意識を記述する(明晰夢を題材に、夢と現実の関係について考える)
 2)意識と機械(ブレイン-マシン・インタフェースを題材に、意識と現実の関係を考える)
 3)共感覚をめぐって(共感覚を題材に、知覚的意識について考える)
 4)意識をどう考えるか?(セクション2のまとめ)
セクション3:「他者の心」をテーマとして議論を進める
 1)問題としての他者(独我論的体験を題材に、他者の心をめぐる問題を整理する)
 2)心の科学と他者問題(他者問題との関連で、20世紀の心の科学の変遷をたどる)
 3)他者理解を身体化する(身体性から出発して、他者問題を改めて考え直す)
 4)自己の成立に他者は必要か?(セクション3のまとめ)
授業の方法:
各回の授業は、講師による講義および問題提起→全体での討議、という順序で進める予定である。講師は、教科書に書かれてある事項の全般的な解説と、議論の呼び水となる問題提起を行い、それを踏まえ、受講生全員でディスカッションを行う。ただし、受講者数に応じて授業の形式が多少変わる可能性があるので、履修希望者は初回のガイダンスに参加すること。
成績評価方法:
ディスカッションへの貢献度(30%),期末レポート(70%)によって評価する。出席が全体の2/3に満たない場合、成績評価の対象にならない。なお、受講者数に応じて期末レポート以外の評価方法は変化する可能性がある。
教科書:
田中彰吾『生きられた<私>を求めて-身体・意識・他者』北大路書房,2017年(近刊).
参考書:
以下を参考書として勧める。
Gallagher, S. (2012). Phenomenology. Basingstoke: Palgrave Macmillan.
履修上の注意:
この授業は、心の諸科学(心理学・神経科学・認知科学・精神病理学など)と現象学の接点に関心のある学生たちに受講を進めます。予備知識の多寡よりも、開かれた関心をもって授業に参加してください。
関連ホームページ:
その他: