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3,4年生の方へ

講義名 科学技術史特論VI
年度 2017
区分 夏学期:通常講義
担当 宮川 卓也
教室 8-324
詳細

 講義題目:  

科学技術史特論VI:科学と帝国主義・植民地
 
授業の目標・概要:   
大航海時代以降、西欧各国がさまざまな思惑と欲望を背景に世界全域へと影響圏を拡げていくなかで、科学と技術はいかなる役割を果たしたのか?帝国主義的膨張、植民地支配・経営において、なぜ科学と技術は必要とされたのか?植民地ではいかなる科学研究が行われ、そこで生産された科学知識とはいかなるものであり、それはどのような意味をもっていたのか?
本講義は、オーソドックスな科学史の歴史記述において長く等閑視されてきた「科学と帝国主義・植民地」について考える。ヨーロッパで「科学革命」や「産業革命」などが進んでいたまさにその時代、別の地域でヨーロッパ人は何を研究し、あるいは研究成果をどのように実践していたのか?また、19世紀後半から欧米の科学・技術を積極的に受容した日本は、帝国として「成長」していくなかで、なぜ、どのような科学研究を行い、実践したのか?本講義では、科学・技術をとりまく政治社会的文脈に焦点を当てつつ、「近代科学」と呼ばれるものの本質について考えたい。
1980年代以降、科学史学界では「科学と帝国主義・植民地」問題についての研究関心が高まり、多くの意欲的・実証的・挑戦的な研究が発表されてきた。ジョージ・バサラ(George Basalla)による記念碑的論文「西欧科学の伝播(The Spread of Western Science)」(1967年)に対する批判的検討から、「科学と帝国主義・植民地」というテーマの重要性が徐々に認知され、研究が活発となった。
その一つの重要な成果として、18世紀から20世紀までの世界史が帝国や植民地というキーワード抜きに語ることはできないという歴史学の常識が、科学研究においてもまた同様であること、つまり科学研究が置かれた世界・社会状況と無縁ではありえないことを再確認した点、科学・技術が侵略や支配、戦争、抵抗などの道具として大きな役割を果たした政治的要素の強い営為である点、さらに、通常の科学史記述とは違い、その時期の科学研究としては数学や物理学、天文学など理論的分野よりも、自然史(博物学)や医学、地理学などが大多数の人々にとって重要な科学の研究課題であった点などが明らかになったのである(もちろん以上が全てではない)。
本講義では欧米および日本などの各帝国において科学・技術はどのように機能したのか、各植民地ではどのような科学研究が行われたのかなどの問題を概観する(ここでは古代帝国、トルコやインド、中国の帝国・王朝は扱わない)。
本講義は、1980年代から2000年代にかけて発表された研究成果のうち、代表的なものを取り上げ、「科学と帝国・植民地の問題は、何が問題なのか?何が問題とされているのか?」について議論を深めることを目的とする。
 
授業のキーワード:   
[日本語用]
科学と帝国主義・植民地,知の移動,支配と抵抗の道具としての科学,植民地科学
 
[外国語用]
Science and empire, etc, circulation of knowledge, science as tools of rule and resistance, colonial science, imperialism
 
授業計画:   
各週のリーディングの範囲は第1週以降に指定する。目安として、英語文献はおおよそ30〜40頁、日本語は1〜2章分ほど。授業の状況を鑑みて、読書課題を変更することもありうる。
 
1週 オリエンテーション:「科学と帝国主義、植民地」とは何か?
2週「科学と帝国主義・植民地」論のはじまり:George Basalla, “The Spread of Western Science”;Roy MacLeod, “On Visiting the Moving Metropolis”
3週 帝国の膨張と科学技術:ダニエル・ヘドリック『帝国の手先』
4週「科学の価値」と帝国:ルイス・パイエンスン「科学と帝国主義」;パオロ・パラディーノ、マイケル・ウォーボーイズ「科学と帝国主義」
5週 帝国科学のシステム:J. McClellan & F. Regourd, “The Colonial Machine: French Science and Colonization in Ancien Regime”
6週 植民地医学・医療(1):David Arnold, Colonizing the Body
7週 植民地のフィールドワーク(1):Fa-ti Fan, British Naturalists in Qing China
8週 知の価値:ロンダ・シービンガー『植物と帝国』
9週 植民地医学・医療(2):飯島渉『マラリアと帝国』
10週 帝国と食:藤原辰史『稲の大東亜共栄圏』
11週 植民地のフィールドワーク(2):坂野徹編著『帝国を調べる』
12週 被支配者の科学(1):ロー・ミンチェン『医師の社会史』
13週 被支配者の科学(2):任正爀編著『朝鮮近代科学技術史』
 
授業の方法:   
毎時間1〜2本の論文(40~50頁程度)もしくは研究書(の一部)を読み、学生が発表・議論し、担当教員が解説を加える準セミナー形式で進める。受講生は毎週A4で1枚の論評を書き、講義で発表する。これを通じて、受講生は文章を読み、考え、書くという学問の基本作法を身につけることを目標とする。詳細は講義中に説明する。
 
成績評価方法:   
毎週の課題および授業中の参加態度に基づいて評価する。
 
教科書:  
授業計画および参考書に記載した文献および資料を参照のこと
 
参考書:  
コナン・ドイル『失われた世界』東京創元社、1970年
ジェームス・キャメロン監督『Avatar』2009年
ダニエル・ヘドリック『帝国の手先:ヨーロッパ膨張と技術』日本経済評論社、1989年
廣重徹『科学の社会史 上下』岩波現代文庫、2002年
脇村孝平『飢饉・疾病・植民地統治』名古屋大学出版会、2002年
トンチャイ・ウィニッチャクン『地図がつくったタイ』明石書店、2003年
飯島渉『マラリアと帝国』東京大学出版会、2005年
坂野徹『帝国日本と人類学者』勁草書房、2005年
常石敬一『戦場の疫学』海鳴社、2005年
坂野徹・愼蒼健 編著『帝国の視覚/死角』青弓社、2010年
李清俊 著(姜信子訳)『あなたたちの天国』みすず書房、2010年
任正爀 編著『朝鮮近代科学技術史研究』皓星社、2010年
宮川卓也「帝国日本の気象観測網拡大と梅雨研究」『科学史研究』2016年1月
金森修 編著『昭和前期の科学思想史』勁草書房、2011年
藤原辰史『稲の大東亜共栄圏:帝国日本の<緑の革命>』吉川弘文館、2012年
ロー・ミンチェン(塚原東吾訳)『医師の社会史:植民地台湾の近代と民族』法政大学出版局、2014年
坂野徹 編著『帝国を調べる:植民地フィールドワークの科学史』勁草書房、2015年
金凡性『明治・大正の日本地震学』東京大学出版会、2007年
ルイス・パイエンスン「科学と帝国主義」(佐々木力訳『思想』779、1989年)
パオロ・パラディーノ、マイケル・ウォーボーイズ「科学と帝国主義」(塚原東吾訳『現代思想』2001年8月号)
Johannes Fabian, Time and the Other (Columbia univ. Pr, 1983; 2014)
George Basalla, “The Spread of Western Science,” Science 156 (1967)
Roy MacLeod, “On Visiting the 'Moving Metropolis’: Reflection on the Architecture of Imperial Science,” in Scientific Colonialism (Smithsonian Institution pr., 1988)
J. McClellan & F. Regourd, "The Colonial Machine: French Science and Colonization in Ancien Regime," Osiris 15 (2000)
David Arnold, Colonizing the Body (Univ. California Pr, 1993)
Fa-ti Fan, British Naturalists in Qing China, Harvard univ. pr., 2004
カピル・ラジ『近代科学のリロケーション』名古屋大学出版会、2016
 
履修上の注意:  
不正行為が発見された場合、学則に従い、厳罰に処する。
 
関連ホームページ:
 
 
その他:
受講生は、慣れないテーマで苦労することも多いだろうが、毎週の読書課題と論評を楽しんでほしい。また、他の学生が同じものを読んでどう感じ、考え、何を書いたのかを知る機会も楽しんでほしい。