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読書案内

推薦者

野矢茂樹

1.黒田亘編『ウィトゲンシュタイン セレクション』(平凡社ライブラリー、2000)
 ウィトゲンシュタインの哲学に触れようと思ったら、解説書ではなく、ウィトゲンシュタイン自身の著作に触れなければならない。しかし、ウィトゲンシュタインの著作を独力で読むのはほぼ不可能に近い。本書は信頼できるガイド付きでウィトゲンシュタインの著作の名所案内をしてくれる。

2.エヴニン、S.『デイヴィドソン』(勁草書房、1996、原著、1991)
 現代哲学、とくに英米を中心とする分析哲学、あるいは言語哲学や心の哲学において、ドナルド・デイヴィドソンは最重要の哲学者と言える。しかし、彼の著作はさまざまな論文で展開される諸論点が全体的に絡み合っていて、きわめて見通しが悪い。本書はそうしたデイヴィドソンの哲学の全体像に対して、最良の解説を与えている。これで興味をもったらぜひデイヴィドソン自身を。

3.飯田隆、『言語哲学大全Ⅰ』(勁草書房、1987)
 言語哲学の源流であるフレーゲとラッセルについて、その論理的意味論の観点から解説した本。このあたりの話題に関心がある人は必読。さらに進んでみたいという人には、同Ⅱ(1989)、同Ⅲ(1995)を読まれたい。

4.門脇俊介、『現代哲学』(産業図書、1996)
 現代哲学についてのひとつの地図を示してくれる。どこに行ってよいか分からない人はまずこの本を手にとってどんな場所があるのか、見当をつけるのもよい。

5.ラカトシュ、I.『方法の擁護― 科学的研究プログラムの方法論』(村上陽一郎 他訳、新曜社、1986、原著、1978)
 クーンの『科学革命の構造』とあわせて読んでほしい。共通する点と相違する点を押さえながら読むと、単独で読むよりも両者に対する理解がそれぞれ深まるだろう。

6.チャルマーズ、A.F.『新版 科学論の展開』(高田紀代志、佐野正博訳、恒星社厚生閣、1985、原著、1982)
 後半、とくにチャルマーズ自身の議論はあまり水準の高いものではないが、前半のクーン、ラカトシュまでのかつての活気があった頃の科学哲学・科学論の概観は、入門書としてよくまとめられている。

7.岡田猛、田村均、戸田山和久、三輪和久編著『科学を考える― 人工知能からカルチュラル・スタディーズまでの14の視点』(北大路書房、1999)
 比較的若い研究者たちによって、さまざま観点からの科学へのアプローチが紹介される。メタ科学的研究の多様さをぜひのぞいてみてほしい。

8.野矢茂樹、『論理学』(東京大学出版会、1994)
 現代論理学入門の教科書。まったくの初歩から不完全性定理まで。禅坊主が教師泣かせの素朴で過激な質問を発するという趣向。

9.野矢茂樹、『哲学・航海日誌』(春秋社、1999)
 他者を巡る諸問題を「他我」「規範」「行為」「コミュニケーション」という場面で論じた。入門書ではないが、予備知識は不要のはず。哲学することの等身大の姿が見られるのではないか。
(ついでに、『哲学の謎』、『無限論の教室』(ともに講談社現代新書)、『論理哲学論考を読む』(哲学書房)なども、書いた本人としては、ぜひ学生諸君に読んでもらいたい。)

10.野本和幸・山田友幸編、『言語哲学を学ぶ人のために』(世界思想社、2002)
 多岐にわたる現代の言語哲学のさまざまな話題をちょっとずつ試食できる。この界隈はどうなっているのかを覗いてみるのによい。

11.世界の名著でも岩波文庫でもよいから、哲学者たちの原典にあたり、誰か自分と波長の合う哲学者を見つけること。そのさい大事なことは、解説書を読んで「勉強」するのではなく、最低限原著翻訳に触れること。内容もさることながら、哲学者たちがもっている思考のリズムのようなものが重要なのである。そのためには解説ではなく、彼らの「曲」そのものを聴かなければしょうがない。ガイドとして『哲学 原典資料集』( R本巍他編、東京大学出版会)なども参考になる。